開発ストーリー

30年近く介護と
ロボット技術を研究してきた

ー普段はどのような研究をされているのでしょうか?

今は未来ロボット技術研究センターというところにおりまして、ロボットの感情をどう作るかということを中心に研究しています。
僕が学生の頃は、アポロ計画が盛んだった時代でして、宇宙に関わる研究とか開発をやりたいなとアメリカに留学したのですが、学位を取る頃にはアポロ計画も落ち着いてきてしまっていたので、アメリカの大学で教えるようになり、そこから日本に帰ってきて大学の教授職をしていますね。
今は学科の方からは定年退職しまして、研究所の方に移って、勝手気儘なことをやらせてもらっています。
介護の現場でロボットをどう使っていくかという研究は1990年頃からやっていまして、当時から学生さんを必ず現場に行かせて、実習でオムツを替えるところまでやらせてって感じですね。
その一人がabaの宇井さんだったというわけですね。

在学中の宇井さん。明るいキャラクターは当時から変わらないようだ
在学中の宇井さん。明るいキャラクターは当時から変わらないようだ

せっかくの技術も
社会に実装しなくては意味がない

ー学生の頃の宇井さんについて、どんな印象を持たれていましたか?

最初に会ったのは、彼女がキャピキャピの高校生の頃です。
すでにその頃から彼女は介護の現場に役に立つロボットを作りたいと情熱を持っていて、そういう分野で研究をしている研究室を探していたんですね。
AO入試の時、他の学生さんたちがパワーポイントでプレゼンする中、彼女は紙芝居だったのですが。
それが、すごいユニークで面白かったので採用しようと思いました。
そこからもう10年くらいの付き合いになりますね。
宇井さんは技術的な経験はなかったので、未来ロボティクス学科の授業は大変だったようで。
これ言っちゃっていいのか分からないですけれども、1年生を2回やっているんですね(笑)。
ただ本当に集中力の持続する努力家なので、2回目の大学1年生に学会の時に、とても素晴らしい発表したんです。
他の先生に「あなたすごく若いけど何年生?」って聞かれて、「1年生です」っていうから、「大学院の1年生ね」って言われて、「いえ、学部の1年生です」って。
当時から周りを驚かせる学生だったという印象ですね。


彼女が実習に行った施設で、すごく悲鳴を上げている入居者さんがいらっしゃったんです。
排泄を促すために、ケアスタッフさんがお腹を押していたんですね。
でもなかなか出なくて、痛いと。
それ見た彼女はとてもショックを受けて、なんとかして助けられないかっていうところから、Helppadにつながる研究が始まったんです。
彼女はその時すでに大学で研究しているだけではだめで、社会に実装しなきゃいけないという思いを持っていましたね。

研究する人と現場で働く人の橋渡しが重要だと富山さんは語る
研究する人と現場で働く人の橋渡しが重要だと富山さんは語る

現場の協力が
開発を前進させる

ーHelppadの開発ではどのようなサポートをされていたのでしょうか?

私は元々理論屋なので、データとして入ってくるものからどうやって排泄を検知するかというアルゴリズムを作ることについて一緒に開発をしていました。
ただ排泄のいいデータをとるというのがものすごく大変なわけです。
自分たちでオムツを履いて排泄してみるということもやってみたのですが、実際に入居者さんが排泄するものに比べて、どうしても行儀のいいデータになってしまうわけです(笑)。
実際は健康状態がよくなかったりとか、寝返りを打ったりとか、匂いのデータに雑音が乗ってくるわけです。
そういった現場のリアルなデータを開発段階からとれるかどうかは介護現場との関係性次第なのですが、宇井さんは現場でも働かれていたのでデータをとらせていただく関係を築ける。 これは普通の研究者にはできないことで、彼女の人徳の賜物ですね。

現場を変える可能性を
一緒に育てて欲しい

ーHelppadにどんなことを期待していますか?

排泄ってあまり目を向けたくないところだと思いますが、そことしっかり向き合っているのがこの製品のすごく良いところだと思っています。
排泄を検知するにしても、知らせ過ぎるとケアスタッフの業務の妨げにもなりかねませんし、どう使うかというところまで含めたシステムとして考えられた製品じゃないと、現場で使ってもらえない。
宇井さんも現場の感覚はこれまでの経験でわかってると思うので、素晴らしい製品に育っていくと思います。
これがスタートになって、こういうところにもロボットの技術が使えるんだということがわかってくると、じゃあこんなことも!と次のステップにも業界全体で進んでいけるんじゃないかなと思います。
それから、現場で実際に使っていただく方たちには、もし改善して欲しい点があれば遠慮なく言って欲しいですね。現場の人たちの声が製品を良くしますし、一緒に作り上げていくというパラダイムが重要です。
それができるのがabaという会社であり、宇井さんという人間なのですから。

卒業後も師弟を超えた関係で互いに挑戦を続ける二人
卒業後も師弟を超えた関係で互いに挑戦を続ける二人

ウマが合うロボットを
目指して

ロボット技術を使ってこれからやっていきたいことはありますか?

介護する人手が足りなくなるのは目に見えていますので、ロボット技術を使わない限り現場は破綻するでしょう。
ロボットを我々なりに定義するならば「感じて考えて動くもの」です。
その技術を応用するといろんなことができるわけですよね。
私は介護をしている人を助けるロボット、そして人間同士のようにウマが合うロボットを作りたいんです。
人間って千差万別じゃないですか、だからその人に合わせられるロボットがあればいいなと。 介護の現場で研修をさせていただいた時にこんなエピソードがありました。
ある入居者の方に、ご飯を食べさせてあげようと色々サポートするんですけれどもなかなか食べない。
でもなぜか私だけ気に入って貰って、私が食べさせると食べるんですよ。
なぜかわかりませんが、多分私とウマが合ったんだと思いますね。
そういうことがロボットでもできたら面白くありません?
そんな未来を作っていきたいですね。

Profile

富山健

東京工業大学卒業、UCLAシステムサイエンス学科にて博士号取得。
テキサス大学、ペンシルバニア州立大学助教授、青山学院大学教授を経て、2006年度より千葉工業大学未来ロボティクス学科教授となる。
16年に及ぶ米国滞在中、10年間米国の大学教員を務める間にアメリカ空軍、陸軍、AT&T社等から研究プロジェクト資金を提供される。
1984年〜1988年セントラルペンシルバニア日本語学校設立、理事就任。
記事、論説、論文等、約150編。
アメリカ空軍からSummer Faculty Research Fellowに二度選ばれる。